完全切除後、EGFR遺伝子変異は中枢神経系転移再発のリスク因子か?

EGFR mutation is not a prognostic factor for CNS metastasis in curatively resected lung adenocarcinoma patients.

Liu X et al.
Lung Cancer. 2022 May;167:78-86
PMID:35427848.

Abs of abs.
完全切除されたNSCLC患者にとって、再発、特にCNS転移に対するEGFR遺伝子変異の持つ意味はまだ議論のあるところである。本研究では、EGFR遺伝子変異の有無により肺腺癌の再発パターンの特徴を明らかにすることを目的とした。中国の2つの施設からEGFR遺伝子変異の有無がわかっている完全切除肺腺癌例888人を対象とした。初回再発の部位についての記録と、EGFR遺伝子変異有無による再発パターンを解析した。888例中245例(27.6%)に再発が認められた。傾向スコアマッチングの前後で、CNS転移を含むすべての再発について、EGFR遺伝子変異ありとEGFR野生型との間に統計的有意差は認められなかった。多変量Cox回帰により、EGFR遺伝子変異の有無は、CNS転移を含むすべての再発部位の危険因子とはなっていなかった(ハザード比0.88[0.54-1.46], p=0.632)。EGFR遺伝子変異ありのCNS転移ハザード曲線は、術後約24ー26ヵ月に最初のピークがあり、EGFR野生型に比べ10ヵ月遅かった。また、EGFR遺伝子変異ありの第2のピークはEGFR野生型より約2年遅くなっていた。本研究からEGFR遺伝子変異は、術後再発の独立した予側因子ではなかった。EGFR遺伝子変異陽性肺腺癌は、CNS転移の発生率が高いわけではなかった。またEGFR遺伝子変異陽性では野生型群に比べ、CNS転移の再発のピークが遅い時点で生じていた。

感想
EGFR遺伝子変異陽性肺癌が再発しやすいのか、中枢神経系再発が多いのかについてはさまざまな報告がなされています。この議論ではOSはあまり意味を持たず、DFSが焦点になります。討論でまとめられているように、DFSがEGFR遺伝子変異陽性例で長いという結果と、差がないという結果があるようです。陽性例で中枢神経系転移が多いことは既知ですが、中枢神経系が初回再発部位かどうかは議論のあるところです。もしそうであるなら好発時期をよりカバーするフォローアップ計画を立てる必要があります。中枢神経系の好発時期についてはカーネル密度推定を利用しています。大雑把に言えば縦軸に症例数、横軸に時間を並べて滑らかにした曲線ですが、24ヶ月付近と90ヶ月くらいにピークがあります。症例数が200例あまりと少ないことから信頼に欠けますが、それでも2年前後が危ないという情報は有益かもしれません。ちなみにこのカーネル密度推定ですがRでは関数”density”で実行可能で、パッケージではMASSやKernSmoothに含まれています。ただ今回の表題であるEGFR遺伝子変異陽性肺腺癌は、CNS転移の予測因子になっていないというのは同意しかねます。根拠はp=0.632と有意ではないことのようですが、統計学的有意を証明できなかっただけであり、差がないことの証明ではないからです。この表題については査読者の指摘があるべきと感じました。