PS2に対する免疫療法

Immunotherapy in Non-Small-Cell Lung Cancer Patients With Performance Status 2: Clinical Decision Making With Scant Evidence.

Passaro A et al.
J Clin Oncol. 2019 Apr 17:[Epub ahead of print]
PMID:30995172

Abs of article
免疫チェックポイント阻害薬は非小細胞肺癌の治療において重要な治療手段である。数々の臨床試験が行われたが、対象はPS0-1である。この薬剤はFDAやEMAにPS関係なく承認されており、臨床疑問としては、これら臨床試験の結果をPS1より悪い患者に拡張できるのかということである。
免疫療法以前は、臨床試験結果でPS0-1と2を層別化して行われてきた。これはPSが強力な予後因子かつ奏効や毒性の予測因子であるからであった。PS2は大きく不均一な集団である。PS2は日常生活はできるが労働不能で、日中の半分以上は活動しているものと定義される。しかしこの定義は年齢、腫瘍量、合併症、多剤服用を考慮しておらず、主観的で患者申告と医師の間でも見立てが異なることも報告されている。したがって実臨床ではPS2の中には、リスクベネフィットが異なる集団が含まれていることになる。非小細胞肺癌におけるPS2の割合は30-40%で、免疫チェックポイント阻害薬を使おうとする際のジレンマである。これまで11の免疫チェックポイント阻害薬の第Ⅲ相試験が行われたが、PS2は除外されている。最近のメタアナリシスによれば、18の癌種でPS0-1と2との間の生存期間に有意差がなかった(P=0.99)とされている。しかしこれは数が少な過ぎ結論できない。現在までのところPS0-1と2を比較できるのは、尿路上皮癌をペムブロリズマブ治療したKEYNOTE-045試験のみである。これによると治療利益はPS0-1に認められ、PS2には認められなかった。しかしこの試験も症例数が少ない。非小細胞肺癌におけるPS2は、腫瘍量が多くCOPDなどでステロイドが入っていることも多い。ステロイドが免疫療法の効果を減弱する可能性もあるし、PS2では抗生剤を使う機会も多くなる。これが腸管細菌叢を変化させ免疫治療のアウトカムに影響する可能性がある。肺臓炎は重要な有害事象だが、もともと肺機能低下している場合やCOPDの場合は評価が難しくなるだろう。このようにPS2では効果に関連する様々な因子が潜在している可能性がある。
前述の通りPS2のエビデンスは少なく、わずかにPS2への免疫治療の効果を直接評価した臨床試験(PePS2 trial)が一つ存在する。CheckMate171試験は、単アームの扁平上皮癌に対するニボルマブの試験だが、高齢者とPS2が入っており、PS2の全生存期間は5.4ヶ月、全体は9.9ヶ月であった。また既治療例の扁平上皮癌に対するCheckMate153は一年生存率で17%対44%であり、PS2の集団が悪かった。またカナダ、フランス、イタリアでの実地調査でもPS2で生存期間が悪化していることが示された。PePS2試験は60人対象で、9人が未治療、15人がPD-L1>=50% であった。奏効率は28.3%、PFS5.4ヶ月、OS11.7ヶ月であり、グレード3,4の有害事象は11.7%に見られた。PD-L1発現の異なる群でも有益性は証明されたが、理想的にはPS0-1対PS2で免疫チェックポイント阻害薬と殺細胞性抗がん剤でのランダム化試験での評価が求められる。PSが予後因子だけなのか、効果予測マーカーかなのかの答えを出していく必要がある。実地臨床において免疫療法の方が忍容性が高いとの認識の下、PS2より悪い患者が免疫療法を受けてしまうのは想像に難くない。難治がんに対して、最終手段としての免疫療法をせずに死ぬ患者がいてはいけないというような考え方は、確実にこの薬の需要を増加させる。薬が高額であるが故に、他に手段がないからと言っていると、患者家族そして社会に重い財政負担を強いることとなる。
今回の議論の中心は、エビデンスなしに免疫療法をPS2の患者に適用すると害になるのではないかということである。この理由は2つあり、一つはPS0-1と比較して明らかに生存データが劣ること、もう一つはソラフェニブの肝細胞癌に対するデータからもわかるように実臨床で明らかに臨床試験での適格基準から外れる患者に投与するとはるかに悪い成績になるということである。またPS2に対しては免疫チェックポイント阻害薬より化学療法の毒性が強いことが言われるのに、抗がん剤が投与されないような集団に免疫チェックポイント阻害薬が投与されることである。
これから非小細胞肺癌の治療は免疫治療+抗がん剤の併用に動こうとしている。併用療法は有望であるが、逐次治療との比較がなされていない。PS2は予後を変えるために治療を必要としているが、大部分の治療に耐えられないということで独特な集団である。PS2に関しては併用療法は適切でない可能性がある。現在行われている臨床試験として高齢者とPS2患者におけるニボルマブ+イピリムマブ対抗がん剤の比較試験(eNERGY試験)があり、ASCOやFDAでもより実集団に近づけるために高齢者をランダム化試験へ登録することが奨励されている。このようなエビデンスが作られるまでは、ケースバイケースで判断していくことが求められる。

感想
昔から肺癌を診療している身にとってEGFR-TKIのいわゆるラザロ研究[Inoue A JCO2009 PMID:19224850]は、これまで不可能だった治療によってPSを回復させるという画期的な研究でした。EGFR/ALK遺伝子変異陰性でPS2以上であるものの、TPSが高く何とか免疫療法で救えないかと思うような状況に時々遭遇します。今回は論文ではなく”COMMENTS AND CONTROVERSIES”という形で掲載されています。指摘されているように、抗がん剤はきつそうだが、免疫療法ならなんとかいけそうとか、(PS悪いが)TPS 90%あるので、免疫療法を試さずにいるのは…とう意見はしばしば聞かれます。免疫チェックポイント阻害薬より化学療法の毒性が強いことを懸念しながら、さらにエビデンスのない(殺細胞性抗がん剤投与不能と思われる)集団に免疫チェックポイント阻害薬が投与されることについては耳が痛い限りです。私も含め抗がん剤治療を行っている医師は、どうしても治療する方向に向いてしまい中止の決断が遅れ気味です。これは指摘されているように、効果に乏しいばかりではなく、患者家族や社会に重い財政負担を強いる結果となります。現在のところPS不良のエビデンスは極めて少数で、特にこの集団を対象にした免疫療法に関する前向き試験はないのが現状です。本論文が主張するように、サブグループ解析や後ろ向き研究からPS2への利益は今のところなくケースバイケースと言えます。つまりむしろ有害である可能性を十分に加味して治療選択を行うということです。蛇足ですが私は良くこの状況を山で遭難することに例えます。つまり何もせずじっとしていれば助かったのに、動いてしまい体力を消耗し助からなかったという話に置き換えてしています。動かない方が最適とわかっていても、どうしても動いてしまう、これは人間の行動特性なので仕方のないことかもしれません。