Pseudoprogressionは多くない。

Radiologic Pseudoprogression during Anti-PD-1 Therapy for Advanced Non-Small Cell Lung Cancer.

Katz SI et al.
J Thorac Oncol. 2018 Jul;13(7):978-986.
PMID: 29738824

Abs of abs.
抗PD-1療法は、画像上のpseudoprogressionを含む、従来見られなかった奏効パターンを来すことがある。今回は、進行非小細胞肺癌におけるpseudoprogressionの実臨床での発生率を調べ、奏効に関する評価基準による比較を行った。過去3年にわたる非小細胞肺癌患者でPD-1治療を受けた患者を後ろ向きに解析し、臨床的にpseudoprogressionが疑われる患者を特定した。評価画像や臨床データがない患者は除外した。画像検査を追跡し、その後病勢進行が確定されたかどうかを判定した。RECISTver1.1、一方向免疫関連評価基準(iRRC)およびiRECIST基準において奏効の評価を行い、比較した。3年間に228人が抗PD-1治療を受けていた。166人が評価可能であり、大部分(80%)がニボルマブを受けていた。15人(9%)にpseudoprogressionが疑われた。これは治療開始から4-6週で見られた腫瘍増大、新規病変の出現を指しており、PD-1治療は継続されていた。これらの患者のうちの3人(2%)は、初回効果判定でpseudoprogressionを呈していた。iRRCおよびiRECISTの基準はpseudoprogressionとnon-progressionを見分け得るのにより正確であった。3つの症例はいずれも、iRRCまたはiRECISTによる判定では病勢進行と見なされなかったが、RECIST ver1.1では病勢進行と判定された。本研究では、画像によるpseudoprogressionは、臨床上の課題であるが、抗PD-1治療中の非小細胞肺癌患者では稀なことであった。

感想
4つ目の免疫チェックポイント阻害薬であるデュルバルマブが製造販売承認を得ました。この手の薬の使い方が今一つよくわからないまま対象が広がっていくことに不安を感じています。今回のテーマであるpseudoprogressionは、学会・研究会でも良く取り上げられます。一旦増悪したかに見えて後で効いてくる症例があることは誰もが認めますが、明確な定義については固まっていません。どのタイミングでも一旦悪化、その後改善した症例をすべてpseudoprogressionと呼んでいいのでしょうか?用語の混乱があるように思います。これを共通の言語で語るには、奏効と増悪をきちんと定義する必要があります。奏効の定義としてよく使われているRECISTは、標的病変の「一方向」の総和で-30%以上に縮小すれば奏効とするものです。一旦増大してから小さくなることもある免疫療法での評価方法として、まず報告されたのは5㎜以上の病変の「二方向」の総和を取り、新病変はPDとせず全体を見ていく方法[Wolchok JD ClinCancerRes2009 PMID:19934295]でした。またこれを「一方向」にしたもの[Nishino M ClinCancerRes2013 PMID:23743568]もあり、両者ともirRECISTと呼ばれることがあるようです。細かくは前者をiRC、後者をirRECISTと呼ぶようです。すべての総和は、縮小増大が混在する場合に便利ですが、これらの定義には、測りきれないような小さな新規病変の取り扱いがはっきりしていません。その問題を解決すべくiRECISTが考えられました[Seymour Lancet Oncol2017 PMID:28271869]。これは新病変あるいは標的病変の増大が見られれば、RECIST同様一旦PD(uncomfirmed PD)と判定し、次回検査(4-8週後)でもPDであればPD確定となります。uncomfirmed PDの後縮小し、PRになった場合は、一回目のPDはリセットされ、PDとなるには再度uncomfirmed PDから判定していく必要があります。言葉で書くとややこしいかもしれませんが、Seymourらの論文の補遺に、腫瘍報告書にしたシナリオが示されており大変参考になります。腫瘍サイズと、新規病変の有無について順を追ってみるとそれほど難しい判定方法ではないことがわかります。参考までに、講義を聞きたいという方にはICR臨床研究入門の中に「RECISTと免疫療法の効果判定規準」という良い講義があります。
前置きが長くなりましたが、このようにRECIST、(一方向の)irRECIST、iRECISTの3種類できちんと評価するとpseudoprogressionはどれくらい出るのかというのが今回の解析です。評価可能であった166人のうち、一回目の評価でPDとなったのは53%あり、そのうちわずか3人(2%)だけがpseudoprogressionであったされています。この一回目の評価のタイミングは詳しく書かれていませんが、提示された症例から察するに2ヶ月(8週後)ではないかと思われます。iRECISTでは6-12週毎の評価が推奨されていますので妥当な水準かと思います。つまり一回目の評価をあまりに早く行ってpseudoだといっても、共通の認識にはならない可能性があると考えておくべきでしょう。今回の結論はiRRCおよびiRECISTの基準はpseudoprogressionとnon-progressionを正確に判別できたということですが、もう一つの課題として腫瘍の増大と縮小が混在するいわゆる”mixed response”についても論評しています。iRRCは総和のため、大きく縮小する腫瘍があると一方的に大きくなる病変があってもPDと判定されない可能性があると述べています。著者らはiRCC、iRECISTをどちらかを推奨するわけではなさそうですが、私はRECISTと同じように考えられるiRECISTの方がなじみやすい気がします。類似の報告[Tazdait M EurJCancer2018 PMID:29182990]も出されており、おおむね6週毎の評価でpseudoprogressionは5%であったと報告されています。私が考える免疫治療判定のコツは、状態が悪くなければきちんと6-8週待って評価する、pseudoprogressionは稀と考える、PD-L1高発現でも期待しすぎないことと思っています。