T790M変異陽性例は脳転移出現までが遅く、少ないのか?

Clinical characteristics of T790M-positive lung adenocarcinoma after resistance to epidermal growth factor receptor-tyrosine kinase inhibitors with an emphasis on brain metastasis and survival.

Joo JW, Hong MH, Shim HS.
Lung Cancer. 2018 Jul;121:12-17.
PMID: 29858020

Abs of abs.
T790M獲得変異を持つ肺腺癌の臨床背景を調べ、特に脳転移と生存期間に焦点を絞り解析した。初回生検でEGFR遺伝子変異陽性があり、第1/2世代のEGFR-TKIを使用し、その後治療抵抗性となった時に2回目の生検を行った症例を対象とし、T790M変異と臨床背景との関係性を解析した。合計111人の患者が同定され、58人の患者(52.3%)がT790M変異を持っていた。第1/2世代のTKIで増悪後、29人の患者(26.1%)でオシメルチニブが使用されていた。T790M変異は、L858R変異よりDel19でよく見られていた(p=0.026)。またより長くTKIで治療されていた(p=0.0398)。多変量解析により、Del19がT790M変異と独立して関連していることが明らかとなった(p=0.003)。T790M変異を有する患者は、より長い無増悪生存期間を示していた。さらに、T790M突然変異を有する患者またはオシメルチニブ治療を受けた患者は、全生存期間および病勢進行後の生存期間がより長かった。診断時に脳転移がなかった患者の脳転移出現までの期間は、T790M陽性またはオシメルチチブ治療を受けたものがより長かった。オシメルチニブ治療は、全生存、病勢進行後の生存期間および脳転移までの生存期間と独立して関連していた。獲得耐性としてのT790M変異は、Del19と関連し、第1/2世代のEGFR-TKIへのより長い無増悪生存期間と相関していた。第3世代のEGFR-TKIであるオシメルチニブは、EGFR変異陽性肺腺癌患者の脳転移出現までの期間および他の予後指標と強く関連していた。

感想
脳転移とT790M、オシメルチニブとの関連を解析した実地の報告です。最近はビッグデータの流行もあり、この種のリアルワールドデータの報告も重要視されています。T790M発現そのものが予後が良いというデータは複数あります。調べるまでもないことかも知れませんが、オシメルチニブ使用により予後が改善されたという決定的なデータはまだありません。また今回の第1/2世代のTKIは、72%がゲフィチニブ、24%がエルロチニブ、4%がアファチニブでした。今回の研究では、T790M変異の出現率がDel19>L858Rでしたが、従来報告は同等とされ今後の集積を待ちたいところです。今回の報告で最も重要な点は、初回診断時に脳転移がないもので、T790Mが出てくるものには脳転移の出現割合が少ないということです。さらに興味深いのはT790M変異がありオシメルチニブが使用できなかった患者はT790M陰性例と同じ生存曲線を描いています(Fig3C)。バイアスはありますが、T790Mにオシメルチニブを使うことが延命寄与するという間接証拠になるかと思います。
ASCO2017の報告が各所でなされています。免疫療法の話題ばかりで、オシメルチニブ以降、新規TKI単剤のエビデンスはしばらくなさそうです。このように新規薬剤のデータを丁寧に実地臨床と臨床試験をすり合わせ、確認していく作業も臨床医である私たちには欠かせない作業だと思っています。