TKI+ベバシズマブでT790Mが減る?

Investigation of efficacy and acquired resistance for EGFR-TKI plus bevacizumab as first-line treatment in patients with EGFR sensitive mutant non-small cell lung cancer in a Real world population.

Zeng L et al.
Lung Cancer. 2020 Mar;141:82-88.
PMID:31982639

Abs of abs.
実地臨床におけるEGFR-TKIとベバシズマブの効果を検討し、耐性機序についての示唆を得るために研究を企画した。次世代シークエンサーにおいてEGFR遺伝子変異(19delとL858R)を持つ256人の非小細胞肺癌患者を対象とした。次世代シークエンサーは168遺伝子パネルを有するもので2015-2018年にかけて行った。コホートAは60人のTKI+ベバシズマブ、コホートBは120人のTKI単剤治療であり、これらは傾向スコアによってマッチさせ転帰と耐性機序について検討した。患者背景は両群で差がなく、コホートAの方が奏効率が良好(95% vs 74.2%, P=0.001)、無増悪生存期間も良好(16.5ヶ月 vs 12.0ヶ月 ハザード比0.7、P=0.001)であった。2019年1月までにコホートAで31人、コホートBで103人の進行例に対し再生検を行っており、これを次世代シークエンサーで解析した。コホートBにおいてはT790Mが主な耐性機序であり、51.5%に見られ、以下EGFR増幅(15.5%)、MET増幅(6.8%)の順となった。一方コホートAでは、T790M変異は少なく(35.5%,P=0.0003)、遺伝子変異としては以下TP53(29.0%)、RB1(9.7%)、SMAD4(3.2%)、EGFR V834L(3.2%)が見られておりEGFR増幅(9.7%)、MET増幅(6.5%)も見られた。今回の検討により初回治療のTKI+ベバシズマブ投与により増悪までの期間が延長され、奏効率の改善と安全性が保たれていた。T790Mが耐性機序としてよく見られるものの、TKI+ベバシズマブでは少なかった。

感想
この論文で得られたのは「TKIにBevを上乗せすることでT790Mでの耐性割合が減るかも知れない」という示唆です。第1/2世代TKIで治療した場合のT790M耐性は、第三世代TKIでの治療適応となるとともに、その薬の投与がなくとも予後良好因子です。従ってT790Mによる耐性化を防ぐことはむしろマイナスに働くこともあり得ると言えます。オシメルチニブがなかった時代、TKI耐性後の生存期間中央値はT790M陽性例で19ヶ月、陰性例で12ヶ月と報告されています[Oxnard GR ClinCancerRes2011 PMID:21135146]。今回のOSは未成熟データで何とも言えませんが、前向き試験であるNEJ026[Saito H LancetOncol2019 PMID:30975627]では、エルロチニブ対エルロチニブ+ベバシズマブの比較で無増悪生存期間に差がつくものの、全生存期間に有意差はなく生存曲線がほぼ重なっていました。この説明としてT790M変異の出現率の低下も考えられます。
今回TKI+ベバシズマブのT790M以外による耐性化としてTP53変異の割合増加が認められました。TP53変異は血管新生阻害薬は相性がよいという報告[Schwaederlé M CancerRes2015 PMID:25672981]もあり耐性化とは切り離す必要があるかもしれません。今回ベバシズマブを使える人は背景が偏りますので傾向スコアマッチングを行っています。傾向スコアのマッチングで使用された因子は、性別、組織、脳転移、EGFR変異、病期でした。この症例数でこの共変量の少なさではかなり危ういモデルになっていると思います。傾向スコアにおける共変量の選択は、臨床側しか判断できないこと、正確性を証明する方法がありません。この論文も含めて最近の傾向スコアが非常に症例数の少ないものでも乱用されており非常に問題です。傾向スコアを試したい場合「調査観察データの統計科学 岩波書店2009」が日本語で読める数少ない良書です。
これまでのTKI種類ごとのT790M出現率に関する検討はありましたが、今回のようにTKI+αの後の耐性機序が詳しく報告されたのは初めてであり参考にすべきデータであることは言えます。T790M変異が出やすい臨床背景があるのかどうかはまだわかりません。EGFR野生型では喫煙者がTP53変異を持ちやすいようです[Molina-Vila MA ClinCancerRes2014 PMID:24696321]が、ひょっとするとTP53変異が出やすいものはT790Mが出にくいのかも知れません。そのようなものはベバシズマブ併用が良いのかも知れません。JO25567試験では全生存期間のサブグループ解析において、現喫煙者はエルロチニブ+ベバシズマブ群のハザード比が0.6で良い方に寄っています。EGFR遺伝子変異に対する戦略はさらに個別化し、あらゆる方向から考えていく必要がありそうです。