クライオバイオプシーはEGFR遺伝子変異検出に有利?

Cryobiopsy increases the EGFR detection rate in non-small cell lung cancer.

Haentschel M et al.
Lung Cancer. 2020 Mar;141:56-63.
PMID:31955001

Abs of abs.
進行非小細胞肺癌においてEGFR遺伝子変異の同定は個別化医療の重要なポイントである。生検手技が遺伝子変異同定に与える影響は明らかではない。今回、単施設でクライオバイオプシーと他の方法で採取した検体における、EGFR遺伝子変異同定率を評価した。2008から2014年で組織学的に非小細胞肺癌と確定した患者414人でEGFR遺伝子変異の有無が確認できているものを対象とし、クライオバイオプシーとその他を比較した。クライオバイオプシーで得られたEGFR遺伝子変異は29病変、27/125人(21.6%)であった。クライオバイオプシー以外(鉗子、吸引針生検、画像を使った経胸腔的あるいは外科生検)では42病変、40/298(13.8%)であった。通常鉗子に比べてクライオバイオプシーは、中心部病変の場合EGFR遺伝子変異の同定率が上昇していた(19.36%対6.5%、P<0.05)が、末梢でも有意ではないものの傾向が見られた(33.3%対26.9% )。今回の結果は進行癌における治療最適化、個別化に貢献するが、後ろ向き研究のため、最終的に評価するためには前向き試験が必要である。

感想
主な結果である「クライオバイオプシーの方がEGFR遺伝子変異の検出率が高い」ことはおそらく正しいでしょうが、大きくバイアスのかかったデータであり、今回の方法でこの結論を導くことは難しいと思います。
背景を見ていきます。女性の割合はクライオバイオプシー38.4%、それ以外36.7%で非喫煙者も7.2%対7.9%と差がありません。しかし生検した部位が中心性のものがクライオバイオプシーで85.6%、それ以外が33.9%とそもそも対象としているものが違う可能性があります。また検体に占める腫瘍細胞の割合は、クライオバイオプシーで56.7%±19.6(SD)、それ以外で46.1%±20.3、P<0.05で有意差はあるものの手技の印象ほど差がついていないように思います。究極的には取れたDNA/RNA量が大切ですが、その検討はなされていません。2020年2月の肺癌学会誌にはクライオバイオプシーのレビュー[桐田 肺癌2020]が載っており、取れるDNA/RNA量は3倍になりNGSにも適した検体となるようです。今回のクライオバイオプシーかそれ以外で行うかのデバイスの選択についてはなんら方針はなく、術者に任されています。背景から察するに、主に中枢病変に関してクライオバイオプシーが行われているようです。ガイドシースに比べてクライオバイオプシーはやや硬く極端に曲げることができません。したがって上葉枝には入れにくい面があります。またあまりにも末梢では気胸の心配があるため、(データ上は気胸が増えないことになっていても)どうしても避けてしまいます。さらに通常鉗子とクライオバイオプシーと両者試みる場合もあり、手技の前後により検体採取の難易度と検体の質は明らかに異なります。その扱いについては一切明記されていません。また術者の力量も不明であり、結局クライオバイオプシーとその他の手法の検体の単なる比較に終わっています。
遺伝子パネルの導入により、生検である程度量を取る必要性が出てきました。悪性疾患のクライオバイオプシーはまだデータが少なく、推進派にとっては格好のデータで、この論文が引用されることもあるでしょう。今回の研究の結論はおそらく正しいでしょうが、バイアスの存在を知ったうえで参考にすべきものと思います。