小細胞肺癌に対する予防的全脳照射は揺らぎつつある?

Rates of Overall Survival and Intracranial Control in the Magnetic Resonance Imaging Era for Patients With Limited-Stage Small Cell Lung Cancer With and Without Prophylactic Cranial Irradiation.

Pezzi TA et al.
JAMA Netw Open. 2020 Apr 1;3(4):e201929.
PMID:32236532

Abs of abs.
過去のデータから小細胞肺癌患者において予防的全脳照射(PCI)には生存延長効果があることが示されている。しかしMRI撮影が広まるにつれこの考え方は疑問視されつつあり、最近の研究では進展型小細胞肺癌については否定的な見方もある。依然として限局型小細胞肺癌(LS-SCLC)についての意義は明確ではない。今回はMRIを使用したステージングを行ったLS-SCLCにおけるPCIの有無での全生存期間について報告する。297人のLS-SCLCのコホートを使用した。患者は胸部放射線治療を受け、さらに205人がPCIを受け、92人が受けていなかった。全患者がベースラインでのMRIを受けており、再ステージングはMRIまたはCTであった。すべて胸部放射線治療後に進行が見られなかったものである。傾向スコアマッチングを行い潜在バイアスを除去するように試みた。297人が適格であり、傾向スコアには患者背景、腫瘍状態、治療状況を使用し295人について算出した。297人について、162人(54.5%)が男性、年齢中央値はPCI群で62.2歳、非PCI群で68.6歳であった。3年間の累積脳転移発生率は非PCI群で高かったものの、死亡の競合リスクを加味すると統計学的有意差は見られなかった(20.40%[12.45-29.67] 対 11.20%[5.40-19.20]; P=0.10)。またPCIの有無は全生存期間において差が見られなかった(ハザード比0.844[0.604-1.180:P=0.32])。今回の結果からMRIでステージングされたLS-LCLCにおいて胸部放射線治療後のPCIは新規脳転移発生のリスク軽減と関係しなかった。またPCIは生命予後延長とも関連していなかった。

感想
297人から、PCI=84人対非PCI=84人の傾向スコアマッチさせた集団で比較を行っています。PCIは現在標準医療と考えられています。それをしていないとすれば重大な差が存在しているものと考えられます。つまり非PCI群では、化学放射線療法後のPS低下、合併症の発生、CR/nearCRに届かないことが多かったと想定されます。例えば傾向スコア調整前のPCI群のCR率は71.4%、非PCI群のそれは51.4%でした。このあたりをたとえ傾向スコアで調整したとしても潜在バイアスは避けられないでしょう。ただ累積脳転移発症率はPCI群で低くなっており、局所の予防効果は確かにあると言えます。しかしFig2に見るように、本来悪いはずの非PCI群と全生存期間で差が見られないという結果になりました。見た目の生存曲線も完全に重なっています。つまりMRIでステージングされたLS-LCLCに関して、PCIはそれほど延命効果はなく強く勧められないのではないか?ということが示唆されます。もちろん著者はそこまで踏み込んだ主張はしていません。しかし非小細胞肺癌においては照射技術が発展し、全脳照射は極力避けられる方向にあり、小細胞肺癌だけ無条件にPCIというのもやや時代遅れの印象もあります。著者らは中枢神経系について「従来の考え方のようにSCLCとnon-SCLCを完全に分けて治療すべきではない」と主張しています。私もその通りと思います。