TKI耐性化後のTrop-2標的のADC治療

Sacituzumab Tirumotecan in EGFR-TKI-Resistant,EGFR-Mutated Advanced NSCLC.

Fang W et al.
N Engl J Med. 2025 Oct 19. Epub ahead of print.
PMID:41124220.

Abs of abs,
サシツズマブ・チルモテカン(sac-TMT)は、TROP2抗原を標的とする抗体薬物複合体であり、EGFR-TKI療法およびプラチナ製剤ベースの化学療法後に進行したEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌において、生存期間の有意な延長効果を示している。本第3相試験では、EGFR遺伝子変異陽性の局所進行・転移性非扁平上皮非小細胞肺癌で、EGFR-TKI治療後に増悪した症例を登録した。患者は1:1の比率で、sac-TMT単剤療法群またはペメトレキセド+プラチナ製剤化学療法群に無作為に割り付けた。主要評価項目は、中央判定の無増悪生存期間とした。全生存期間は階層的に検定された主要副次評価項目である。無増悪生存期間の中間解析において、sac-TMT単剤療法は事前設定された有意水準(両側P<0.0001)を達成した。本報告では、事前設定された無増悪生存期間の最終解析結果と、計画された全生存期間の中間解析結果を報告する。全体で376名の患者が無作為化され、各群に188名ずつ割り付けられた。中央値18.9ヶ月の追跡後、無増悪生存期間の中央値はsac-TMT群で8.3ヶ月、化学療法群で4.3ヶ月であった(ハザード比0.49[0.39-0.62])。全生存期間は化学療法群に比べsac-TMT群で有意に延長した(ハザード比0.60[0.44-0.82];P=0.001)。18ヶ月全生存率はそれぞれ65.8%と48.0%であった。グレード3以上の治療関連有害事象は、sac-TMT群の58.0%、化学療法群の53.8%に発生し、最も頻度が高かったのは好中球減少(39.9%対33.0%)であった。治療関連重篤な有害事象は、それぞれ9.0%と17.6%に発生した。EGFR遺伝子変異陽性で従来のEGFR-TKI後に増悪した症例では、sac-TMT併用療法はプラチナ製剤ベースの化学療法と比較して、無増悪生存期間および全生存期間を有意に改善した。

感想
国内メーカーではダトポタマブ・デルクステカン(Dato-Dxd)の開発が進められています。2次治療以降で行ったドセタキセル対Dato-Dxdの第Ⅲ相臨床試験(TROPION-Lung01)[Ahn MJ JCO2025 PMID:39250535]でもEGFRをはじめとするドライバー変異症例に対する効果が高いことが知られており、現在進行中のTROPION-Lung15試験で今回と似たようなことを検証中です。Sac-TMTも同じようなプロセスを踏んでおり、まず既治療例に対するp1/2試験が行われました[Zhao S NatMed2025 PMID:40210967]。それによるとEGFR遺伝子変異陽性例で奏効率55%、PFS11.1か月と良好でした。このため今回の試験が計画されました。なお今回の試験治療も化学療法上乗せではなく、sac-TMT単剤です。結果は要約に示すように非常に良好で奏効率は60.6%、毒性も低く口内炎が多いくらいで肺臓炎の報告はありませんでした。サブグループ解析を見ると、19DelでPFSハザード比0.42、L858Rで0.57、OSハザード比は0.46と0.75でした。競合となるMARIPOSA-2のPFSハザード比がそれぞれ0.30と0.60であり、前後の議論はあるものの両方使えれば非常に強力かもしれませんが、耐性機序から考えると相互排他的な可能性もあります。Trop-2発現とTKI耐性について基礎的な報告がいくつかありますが、直近ではDana-Farberから出ている論文[Baldacci S CanDiscov2025 PMID:40762432]が興味深いです。TKIが奏効してもわずかに残る薬剤耐性持続細胞(DTP)をADCでは根絶できないため効果が持続しないことが実験で示されています。克服方法として、同じく実験ではありますがTROP-2をターゲットとしたCAT-T療法はエレガントであり将来性を感じます。