タレトレクチニブ:ROS1融合遺伝子変異に対する決定版?

Taletrectinib in ROS1+ Non-Small Cell Lung Cancer: TRUST

Pérol M et al.
J Clin Oncol.2025 Apr 3:Epub ahead of print.
PMID:40179330.

Abs of abs,
タレトレクチニブは、中枢神経系活性を持つ強力な次世代ROS1-TKIである。 今回はROS1陽性非小細胞肺癌を対象とした本剤の登録試験から得られた総合成績を報告する。TRUST-IおよびTRUST-Ⅱは、ROS1陽性非小細胞肺癌を対象とした第Ⅱ相単アーム非盲検非ランダム化多施設共同研究である。有効性の結果は、TRUST-IおよびTRUST-Ⅱの主要コホートから集積された。安全性解析は、タレトレクチニブ臨床プログラム全体で集積し、1日1回タレトレクチニブ600mg経口投与を受けた全患者で構成された。主要評価項目は、独立評価の奏効率であった。副次項目として、頭蓋内奏効率、無増悪生存期間、奏効期間、安全性とした。2024年6月7日現在、TRUST-IとTRUST-Ⅱに登録された273例の患者を有効性評価対象集団とした。TKI未治療患者(n=160)の奏効率は88.8%、頭蓋内奏効率は76.5%、TKI既治療患者(n=113)の奏効率は55.8%、頭蓋内奏効率は65.6%であった。TKI未治療患者のDOR中央値は44.2ヵ月、PFS中央値は45.6ヵ月であった。 TKI前治療群では、奏効期間中央値は16.6ヵ月、PFS中央値は9.7ヵ月であった。G2032R変異を有する患者の奏効率は61.5%(13例中8例)であった。タレトレクチニブ600mgを1日1回投与された352例のうち、最も頻度の高かった治療‐緊急の有害事象は、消化器症状(88%)、AST上昇(72%)、ALT上昇(68%)であり、ほとんどがグレード1であった。神経系の有害事象は頻度が低く(めまい21%、味覚異常15%)、ほとんどがグレード1であった。 投与中止に至る有害事象は少なかった(6.5%)。タレトレクチニブは、TKI未治療・既治療患者において、持続奏効を伴う高い奏効率、強い頭蓋内活性、PFS延長、良好な安全性を示し神経学的な有害事象は少なかった。

感想
ROS1は非小細胞肺癌1-2%に見られる融合遺伝子変異です。私の記憶ではALKの報告も定まらぬうちに、クリゾチニブが劇的に効くと報告した論文[Bergethon K JCO2012 PMID:22215748]でこの分野の競争の激しさを知りました。現在はクリゾチニブ、エヌトレクチニブ、レポトレクチニブが承認されていますが、コンパニオン診断薬が微妙に異なるので注意が必要です。クリゾチニブ、エヌトレクチニブでPFS16ヶ月くらいで、レポトレクチニブが飛躍的に伸びて35ヶ月くらいでしたが、神経毒性がやや強く報告されました。さて今回の試験は何といってもPFS中央値45.6ヶ月が驚異的で、それだけでも注目に値しますが、毒性も軽いというところも特筆すべきです。治療中止に至る毒性は約7%あり肺炎、肺臓炎、肝機能異常で神経症状などは大幅に少なくなっていました。また初回、再治療例と混ぜて報告されていますので、既治療例は前治療別に奏効率を知りたいところです。その内訳はクリゾチニブ治療例は53.4%、エヌトレクチニブは80%でした(n=10)。レポトレクチニブでも既治療例のPFSは9ヶ月程度であり、今回の既治療例とあまり変わりません。この既治療例については、遺伝子変異の背景がどうなっているのかわからないので、ROS1については初回治療選択が大事ということになります。日本人についてどうなのかは少し知りたいところです。TRUST‐Ⅱについての日本人サブセットは昨年の肺癌総会で報告されています(WS3-4 抄録集P409)が、全体との差はあまりないようです。また日本は日本化薬が承認申請を進めているようです(リンク先