放射線治療におけるリンパ球減少は予後不良

Radiotherapy-Related Lymphopenia Affects Overall Survival in Patients With Lung Cancer

Abravan A et al.
J Thorac Oncol. 2020 Oct;15(10):1624-1635.
PMID:32553694

Abs of abs.
放射線治療後のリンパ減少は患者の転帰に悪影響を及ぼすが、放射線量とリンパ球減少との関係はあまりわかっていない。今回は画像に基づくデータマイニングを用いて、線量とリンパ球減少に関係が深い照射領域を特定した。肺癌患者901人(非小細胞肺癌584人、小細胞肺癌317人)を解析した。全生存期間(OS)の予後因子をCoxモデルを用い評価した。グレード3以上のリンパ球減少をおこした患者とそうでない患者について腫瘍体積、ベースラインのリンパ球数、照射線量に基づいてマッチさせた集団を作成した。次にデータマイニングを行い、線量とグレード3以上のリンパ球減少に有意な相関がある領域を特定した。そのために、対照患者に対するCT画像による線量マトリックスを作成した。2群の線量分布平均を求め、有意な臓器を同定し、最低リンパ球数との相関が最も高い臓器の線量パラメータを選択した。グレード3以上のリンパ球減少について、全コホートでの多変量解析を行い、さらに305人の食道癌患者についてモデルの検証を行った。調整済みCox回帰では、グレード3以上のリンパ球減少がOSに対する独立した因子であった。特定された部位は、心臓、肺、胸椎であった。リンパ減少の線量パラメータには胸椎V20、肺の平均線量、心臓の平均線量が挙げられ、これらは食道癌(305人)でも証明された。本研究により放射線治療中の重度のリンパ減少は肺癌における予後不良因子であり、これは胸椎V20、平均肺線量、平均心臓線量を最小化して幹細胞と血液プールへの照射を少なくすることで回避可能かもしれない。

感想
引用に挙げられている既報[Campian JL CancerInvest2013 PMID:23432821][Cho O TumourBiol2016 PMID:26264618][Tang C IntJRadiatOncolBiolPhys2014 PMID:25035212]によれば、リンパ球減少は予後不良と関連します。照射範囲が大きいことは腫瘍が大きいことや病変の範囲が大きいことと相関しますし、リンパ球減少が強いことは抗がん剤レジメンとも相関します。これらの検討では若干の調整の工夫はありますが素の比較に近く、リンパ球減少が予後不良との結論としています。
今回はもっと細かく腫瘍体積、ベースラインのリンパ球数、照射線量に基づいてペアマッチさせた2群を作成、さらに照射場所を検討し、どこに照射するとよりリンパ球減少しやすいのかを検討しています。データ解析手法は参考文献が挙げられていないのよくわからず、自前データでの確認は不可能です。結論としては胸椎V20、肺の平均線量、心臓の平均線量が挙げられました(Fig3)。これらは造血臓器である骨髄(幹細胞と循環リンパ球)への照射と循環しているリンパ球プールとしての心臓に照射されることに原因を求めています。事実としてリンパ球減少がOS不良と結びつくことに加え、免疫療法の機会が多くなり、その効果とリンパ球数が関係することが確実でしょう。この点で放射線療法によって誘発されるリンパ球減少症は臨床的に重要になってきます。従って今後胸椎などリスクの高い臓器への照射を極力回避し、免疫療法の効果をできるだけ上げていく方向性になるかも知れません。