終末期における胸部緩和照射

Palliative thoracic radiotherapy near the end of life in lung cancer: A population-based analysis.

Fraser I et al.
Lung Cancer. 2019 Sep;135:97-103.
PMID:31447009

Abs of abs.
進行肺癌において、胸部に対する緩和照射はQOLを改善するが、急性毒性のリスクと症状緩和するにしても数週間にとどまる可能性がある。最適な分割照射計画の立て方はわかっておらず、死期が近い状況での照射はQOLを損ねる新しい要因である。今回の研究の目的は、実地ベースでの根治不能肺癌に対して、死亡4週以内の胸部緩和照射の有用性を検討し、使用に関する因子を同定することにある。2014年から2015年にブリティッシュコロンビア(カナダ)で緩和照射を受けた肺癌患者すべてを対象にした。緩和胸部照射開始から4週以内で死亡した患者の背景を解析した。この期間に1676照射が1584人に対して行われた。生存期間中央値は20週であり、12%の照射が死亡4週以内に行われていた。死期の近い患者には、短期照射、単純な照射計画が使用されていた。89%が1-5回照射であり、75%が予定通り完遂され、94%が照射野を絞った1-2方向照射であった。死期が4週以内に迫った状態での照射に関する因子として、男性、若年、PS不良、転移の存在、小細胞癌、抗がん剤の前治療がないことが挙げられた。今回の結果から、死期が迫った患者への放射線照射には適応の標準化と更なる研究が求められる。それが明らかになるまでは予後と現実的に期待できる効果を熟慮し治療計画を立てていく必要がある。

感想
今回の胸部緩和照射は中央値で5分割20Gyで、生存期間中央値は20週でした。ここから死亡4週以内に照射を受けた患者群と取り出し、それ以外と比較しています。この処置を受けやすいのは男性(多変量でのオッズ比1.78)、若年(同0.98)、PS不良(PS4が1に対して7.58)、転移の存在(1.84)、小細胞癌(2.48)、抗がん剤の前治療がないこと(3.04)でした。このうち「若年」に関しては連続値での多変量解析モデルへの投入なので解釈には注意を要します。ロジスティック回帰での説明変数は通常0、1でカテゴリー化します。そして0が1になることでどれくらいオッズが上がるかを示します。つまり今回の場合年齢が2値区分せず連続値、つまり69、75といった数値で入力されているということです。ややこしいことですが、年齢が1上がるごとに、緩和照射の受けやすさが0.98倍になる(つまり受けなくなる)ということです。点推定値がほぼ1なのに有意なのはこのためです。年齢の要因について、著者らは若いため予後に対して楽観的になりやすいのと、より強い治療を勧めてしまうだろうと考察しています。さてこのように状態の悪い患者への胸部緩和照射について、アメリカ放射線腫瘍学会は、1-5分割を勧めており、30Gy10分割はPS良好例に推奨されているとのことです。今回の検討でも死期が迫っている例には89%が5分割以下でした。その意味では適切にされているのですが、あまり日本では胸部の緩和照射は行われていないようにも見受けられます。検索すると2016年放射線治療計画ガイドラインでは、緊急照射の項目で上大静脈症候群について30Gy/10回程度が一般的、緊急性が高い場合は1回線量4Gy以上も検討と書かれています。ただ注釈として高線量、多分割の方が予後良好の傾向とも書かれています。根治以外の胸部照射の対象は、上大静脈症候群、パンコースト症候群と気道狭窄例でしょうか。このあたりは肺癌以外も含めたランダム化試験の結果も参考にしていく必要がありそうです。内科医としてできることは、今回対象となるような予後1ヵ月以内と予想される患者には、通常照射と違った視点が必要であり、そのことを放射線治療医に確実に伝えていくことです。その上で症例をかなり慎重に選択しないと予後を短くする可能性があるかと思います。