肺癌患者へのブースター接種後のオミクロン株に対する抗体の推移

Antibody Response to COVID-19 mRNA Vaccine in Patients With Lung Cancer After Primary Immunization and Booster: Reactivity to the SARS-CoV-2 WT Virus and Omicron Variant.

Valanparambil RM et al.
J Clin Oncol. 2022 Nov 20;40(33):3808-3816.
PMID:35759727.

Abs of abs.
非小細胞肺癌患者において,SARS-CoV-2 614D(野生型株)および変異型に対する,2価ワクチン接種およびブースター接種について、COVID-19 mRNAワクチンによる結合・中和抗体反応を検討した。SARS-CoV-2 mRNAワクチンを接種した82人と健常者53人が参加した。血液を継続的に採取し,SARS-CoV-2特異的結合抗体と中和抗体反応を評価した。患者の多くはmRNAワクチン接種後に健常者と同等の結合抗体価および中和抗体価を示したが,一部(25%)は反応が悪く,健常者と比較して全体的に低い(6-7倍)抗体価となった(P<0.0001)。70歳より上の患者ではIgG低値(P<0.01)であったものの、PD-1単独療法、化学療法あるいは併用療法を受けている患者であっても、抗体反応に有意な影響は見られなかった。B.1.617.2 (Delta), B.1.351 (Beta)といった変異株、特にB.1.1.529 (オミクロン) に対する中和抗体価は野生株と比較して著しく低かった (P<0.0001)。ブースター接種により,WTおよびオミクロン株に対する結合抗体価および中和抗体価は有意に上昇した(P=0.0001).しかしながらブースター接種から2-4カ月経つと,野生型およびオミクロン株に対する中和抗体価は5-7倍低下していた。非小細胞肺癌患者の一部は,SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種に対する反応が悪く、B.1.1.529オミクロン株に対する中和抗体も低値であった。ブースター接種によりオミクロンに対する結合抗体と中和抗体価は上昇するが、3ヵ月後には抗体価は低下した.今回のデータはSARS-CoV-2オミクロン変異株の急速な拡大の状況下でのがん患者に対する新たな重要事項である。

感想
現在コロナワクチン5回目接種が進んでいます。軽症化に伴いワクチンの有害事象や、ワクチンの有害事象により打つのが嫌になったりと別の問題も目にします。健常人の問題はさておき、抗がん剤治療中の人のオミクロン株に対する抗体がどこまで維持されるのかは知識として持っておくべきことでしょう。要約にあることがすべてですが、非小細胞肺癌患者において50-60歳と比較した場合、加齢にしたがってばらつきが大きくなるように見えます(Fig3)、また無治療と各治療を比較した場合、中央値ではほとんど差がありませんでした。少なくとも免疫治療を入れても抵抗力が大きく下がるわけではないと知れるデータかと思います。残念なのはブースター接種をして一時的にはオミクロン株に対する抗体は上がるものの、抗体は60-110日後には元に戻ってしまうことです(Fig5A,5B)。
日常診療でワクチンの追加接種について相談されることが多いです。今回のデータを見ると、実際に重症化するかどうかは疫学的に確かめるべきとは言え、ワクチンの有害事象が少ない人に、追加接種を止めて良いという根拠はまだ無いと言うべきでしょう。