オシメルチニブ耐性に関する治療前後のリキッドバイオプシー

Mechanisms of resistance and correlation between pre-treatment co-alterations and p-prognosis to osimertinib in chemo-naïve advanced non-small cell lung cancer.

Tamiya A et al.
Lung Cancer. 2024 Sep;195:107917.
PMID:39116552.

Abs of abs,
オシメルチニブ治療を受けた患者は、病変進行に至る。 今回はオシメルチニブに対する耐性機序を明らかにすることを目的とした。ELUCIDATOR:オシメルチニブを投与されている化学療法未治療の進行非小細胞肺癌患者を対象とした多施設共同前向き観察研究である。がん関連遺伝子の変異を、循環腫瘍DNAを超高感度次世代シークエンシングによって検出し治療前と病勢進行後に採取し、これらのペア血漿サンプルを比較した。患者188例(2019年5月~2021年1月)のうち、178例(年齢中央値74歳、女性119例[67%])が組み入れられた。 95人(53%)は19Del欠失変異を有していた。 115人が進行し、85人の循環腫瘍DNAを分析した。MET増幅(n=4)、TP53突然変異(n=4)、PIK3CA変異(n=3)、BRINP3変異(n=2)、BRAF変異(n=2)、APC変異(n=1)、RET変異(n=1)、C797S(n=1)が検出された。治療前にTP53遺伝子変異、METまたはEGFR増幅を有する患者は、無増悪生存期間および全生存期間が短かった。 PIK3CA変異を有する患者はPFSが短い傾向にあった。本研究によりオシメルチニブ抵抗性としてMET増幅とPIK3CA変異の存在が見られた。治療開始前に変異または増幅が共存する患者は、無増悪生存および全生存期間が短かった。

感想
オシメルチニブ治療前後でリキッドバイオプシーを行った研究です。規模の小さい類似研究はいくつもありますが、今回はある程度症例数もまとまっており、特に日本人対象ということで臨床で参考になるデータです。組み入れられた集団のPFSは19.1ヵ月、OSは36ヵ月と平凡(特殊でないということで誉めています)であり、19DelとL858Rも半々とバランスが取れています。治療前のTP53は63/178、EGFR増幅は42/178、METは18/178に検出されています。TP53の有無でPFS、OSともハザード比2くらいあり、予後が倍違うということになります。少し症例数が少ないもののEGFR増幅、MET増幅も同じような傾向で、だいたいハザード比が2前後となっています。これらの変異の場合、PFSが10~12ヵ月となり、第1,2世代のTKIのPFSとよく似ています。つまりTP53がある症例に、オシメルチニブの長いPFSを期待していると足を掬われるということになります。FLAURA試験でも治療前の組織、進行後のctDNAで同じような解析が行われています[Chmielecki J NatCommun2023 PMID:36849494]。そこでは治療前にTP53(62%), EGFR増幅(20%), RB1(12%), RBM10(5%), HER2増幅・変異(3%), MET増幅(3%)が見られていました。これらの患者はオシメルチニブへの反応が悪いことが示されています。今回も頻度の差はありますがより明確化されています。
さて肝心の耐性機序については機序が分かったのが1/4弱であり、あまりはっきりした結論にはなっていません。FLAURA試験からもMET増幅が16%と最多であり、傾向は似ています。この点を踏まえるとオシメルチニブ耐性について、MET増幅をターゲットとするのは十分な理由があることが再確認できます。従って最近公表されたMET-EGFRの2重抗体であるアミバンタマブ中心の治療結果には、十分納得が行きます。残るは治療前のTP53ですが、著者らはエルロチニブ+ラムシルマブの可能性を示しています。TP53を含むEGFR遺伝子変異陽性肺癌に対するこの薬剤は過去に当ブログでも取り上げています。ただTP53のどの変異取り上げるかはさらに議論が必要でしょう。また今回の報告では、アレル頻度のカットオフ点を0.1%にしており、FLAURA試験での解析と違うことにも注意が必要です。このように遺伝子変異が細かく測れるようになると、治療の細分化は必然であり、検査方法、閾値設定、コンパニオン診断薬の統一化はますます重要ですが、しばらく混乱が続きそうな気がします。