Survival in patients with malignant pleural effusion undergoing talc pleurodesis.
Hassan M et al.
Lung Cancer. 2019 Sep 4;137:14-18. [Epub ahead of print]
PMID: 31521977
Abs of abs
最近の観察研究から、胸膜癒着術を行っても再貯留する患者に比べて、癒着が成功した悪性胸水(MPE)の患者には潜在的な生存利益があることが示されている。今回はタルクによる胸膜癒着術を受けたMPE患者の2つのデータセットを使用し、このことを調査することを目的とした。データセット1は、MPEのためOxford Pleural Unitでタルク胸膜癒着術を受けた患者、データセット2は、TIME1試験に登録された患者である。胸膜癒着術の成功は、癒着後3か月でMPEの追加治療が不要であったものと定義した。さまざまな臨床データを収集し、前述のパラメータで調整した後、胸膜癒着の結果(成功 vs.失敗)で生存を比較した。データセット1は、平均年齢74.1±10.3歳の60人の患者が含まれており、頻度の高い悪性腫瘍は、中皮腫、乳癌、肺癌であった。29人の患者(48.3%)で胸膜癒着が成功していた。胸膜癒着失敗は調整オッズ比(aOR、注:ハザード比と思われる)2.85([1.08-7.50]; p=0.034)で予後不良であった。データセット2には、259人の患者が含まれ、平均年齢は70.8±10.3歳で、頻度の高い悪性腫瘍は中皮腫、肺癌、乳癌でした。胸膜癒着は205人の患者(79%)で成功しており、同じく失敗例の生存率のaORは1.62([1.09-2.39]; p=0.015)であった。MPEの患者における胸膜癒着の成功は、延命効果をもたらすようである。この原因の究明と、胸膜癒着術と胸膜留置カテーテルの比較を行うにはさらなる研究が必要である。
感想
悪性胸水について最新のガイドライン[Feller-Kopman DJ AJRCCM2018 PMID:30272503]と、少し古いもの[Roberts ME Thorax2010 PMID:20696691]を少し見返してみました。日本で悪性胸水の場合、ドレナージして再膨張が得られれば癒着の手段が取られますが、完全に再膨張が得られない場合は議論になります。前述の2つのガイドラインでは、それでも癒着を試みるようなことが書かれていますが議論のあるところでしょう。日本で仕方なく行われる頻回穿刺排液は留置カテーテルが使えればしなくて済むので、現状では使用できないことにもどかしさを感じます。再膨張が得られない原因としていわゆる”Trapped lung”があります。これは臓側胸膜が肥厚し膨らまなくなった状態で、画像はNEJMの記事[Albores J NEJM2015 PMID:25946304]でわかると思います。
さて本文では胸膜癒着が成功した方が予後が良くなると報告しています。そもそも再膨張が得られ、癒着できることが予後良好を意味する部分もあるでしょうし、著者がいうように癒着により免疫反応の場が減ること、穿刺による感染の機会が減ることもあるでしょう。胸膜癒着と留置カテーテルのランダム化試験はこれまで3つありますが結論は一定しません。一つ目[Davies HE JAMA2012 PMID:22610520]は、片群50例程度で、プライマリーエンドポイントを42日後の呼吸困難感としていました。このエンドポイントは達成されず、副次評価項目としての生存曲線は群間で交差しており、1年生存率はP=0.32と有意差までには至っていません。2つ目[Boshuizen RC LungCancer2017 PMID:28625655]はプライマリーエンドポイントを6週後の呼吸困難感の改善度合としたものですが、このエンドポイントも達成できませんでした。3つ目[Thomas R JAMA2017 PMID:29164255]は生涯入院を減らすかになっており、留置カテーテルの方が有意に入院日数を減少させました。これは片群70例程度の比較で、全生存期間についても書かれており、それによると調整ハザード比0.68([0.46-1.04]; P=0.07)で、留置カテーテル群の方が死亡率が低くなっています。こう見てくると癒着術を行うかどうかはケースバイケースの判断になってくるかと思います。今後留置カテーテルが国内で広く使われるようになった場合、症状緩和の観点あるいは医療資源の観点から様々な議論が起こる可能性があります。