自然気胸ドレナージか経過観察か

Primary Spontaneous Pneumothorax (Clinical Decisions)

Smyth R et al.
N Engl J Med 2024;390:666-668

症例提示
30歳の男性が、急な右側胸部痛と軽度の労作時呼吸困難で救急外来を受診した。既往歴はなく、喫煙や薬物乱用歴、外傷もない。発熱なく呼吸数21回、HR93回、血圧128/80mmHg、SpO2=93%(室内気)であった。胸部写真では、右肺に中程度の気胸が見られるが、骨、肺門および縦隔陰影は正常であった。痛みに対してイブプロフェンが投与され、外来で経過観察した。90分後の再評価で、バイタルサインは安定、痛みが軽減されていた。4時間後の胸部写真において気胸の変化はなかった。患者は外来で歩行可能であり、バイタルサインも安定、帰宅希望であった。過去の記録ではかかりつけ医へ過去数年間、定期的に予約外来に通院していた。
ここで保存的に管理として帰宅させ48時間後に再評価するべきか、それとも胸腔ドレーンを挿入すべきかを決定する必要がある。

感想
NEJMに時々掲載される日常臨床のテーマです。日本でこのケースはまず入院、即ドレナージとなるのではないでしょうか? 私はかつて気胸に関して、肺尖が鎖骨の上までの虚脱であればSpO2が保たれていても、酸素吸入させながら入院安静、それ以上なら即ドレナージと教わりました。おそらく呼吸器内科医であれば経験があるでしょうが、若い男性のドレナージはかなり苦痛です。一方で時間がたってかなり虚脱した肺であっても、呼吸困難がない症例も見てきました。もし中等度以上の気胸がドレナージしないと治らないのであれば、虚脱して胸水で埋まっている基礎疾患のない若い男性が検診で多く見つかるはずです。でも一人もそのような人を見たことがありません。そのため、かなりの気胸でも自然に治るのではないかと長年疑問に思っておりました。この疑問に答えたわけではないでしょうが、気胸の保存的治療に関する臨床試験が行われており、その報告を4年前に読み記事にしています[Brown SGA NEJM. 2020 PMID:31995686]。
最近の英国ガイドライン[Roberts ME Thorax2023 PMID:37433578]によれば、症状の軽い成人の気胸は「サイズに関係なく」保存的治療が考慮されるとあります。もちろんきちんとフォローアップしなければなりませんが、夜中に緊急でドレナージすることは少なくなるでしょう。このガイドラインでは、他にも悪性胸水の細胞診断には25-50㏄の胸水を提出せよ、バイオマーカーはあまり意味がない、感染症を疑う場合はpHを参考にし7.2以下ではドレナージを考えるなど日常臨床に非常に役立つことが載っており一読をお勧めします。保存的治療のことばかり述べましたが、ドレナージを主張する意見もあり確実性という観点からは、数時間のドレナージを行い観察、抜去して帰宅という選択肢を示しています。臨床では常識とされることが一転することがよくあります。定期的にCommonな話題を乗せてくれる雑誌はやはり一流を感じさせます。