ALK/ROS1陽性は血栓塞栓症のリスクが高い

Common genetic driver mutation in NSCLC and their association with thromboembolic events: A retrospective study.

Lin M et al.
Lung Cancer. 2022 Oct;172:29-34.
PMID:35986977.

Abs of abs.
今回は遺伝子変異を有する非小細胞肺癌患者における血栓塞栓症イベント(TE)の発生率、危険因子を推定し、アジア人における遺伝子とTEリスクの関連を評価した。単変量および多変量Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、TE発症の最も強い予測因子を同定し、さらに遺伝子変異別にTEリスクを評価した。単変量および多変量COX回帰では、扁平上皮癌(ハザード比3.01[1.06-8.56];p=0.039)、多発転移(ハザード比2.72[1.08-6.92];p=0.032)、白血球増多(ハザード比3.24[1.46-7.22];p=0.004), ヘモグロビン減少(ハザード比4.89[1.90-12.64];p=0.001)でリスク上昇していた。遺伝子変異では、ROS1とALK変異でTE発症との関連が高く、単変量解析ではそれぞれハザード比4.04[1.54-10.58];p=0.005)、ハザード比3.57[1.01-12.66];p=0.049)であった。多変量解析ではさらに高くなった。EGFR遺伝子変異は、単変量解析ではTEに対する低下因子のようだが(ハザード比0.28[0.12-0.65];p=0.003)、多変量においては有意ではなかった。KRAS変異ではTEイベントに関連はなかった。血栓イベントの累積発生率は、TKIを使用した患者で発生数が多かった(ハザード比1.473[0.682-3.181];p=0.32)。ドライバー変異が非小細胞肺癌における血栓症のリスクを高める可能性がある。今回の研究においてはALK/ROS1変異の存在は、血栓症リスクを約3~4倍の増加させる。TKIを使用した進行期では、血栓症の発生率の上昇とフォローアップ期間の短縮が見られた。

感想
がん患者の血栓のリスク評価はさまざまありますが、今回使われたのはKhoranaスコア[Khorana AA Blood2008. PMID:18216292]です。これは超ハイリスク癌(胃癌、膵癌)で2、ハイリスク癌(肺、リンパ腫、婦人科癌、膀胱癌、精巣癌)で1、抗がん剤開始前の血小板数が35万以上で1、ヘモグロビン10未満か赤血球増多剤の使用が1、抗がん剤開始前の白血球数が11000以上で1、BMIが35以上で1とスコア化し0が低リスク、1-2が中等度リスク、3以上がハイリスクとするものです。今回は肺癌ですので低リスクはなく、高リスクがROS1で13.2%、ALKで4.8%、EGFRで6.4%%、KRASで5.6%でした。Fig1に血栓塞栓の累積発症率があり、これを見るとALK/ROS1が圧倒的に高くなっています。Khoranaスコアは当たるような当たらないような感じです。これまでのROS1陽性の血栓リスクは高く、過去にも当ブログでも取り上げています。ドライバー変異との機序ははっきりしていませんが、癌細胞によるVEGF発現により血管構造の異常、凝固亢進との関連が想定されています。大腸癌でのKRASと血栓は相反する報告があり結論が出ていません。またもう一つの問題はドライバー変異そのものの影響かTKIの影響かよくわからないところです。ドライバー変異でTKIをしないという選択はあり得ないでしょうから基礎的な面からの研究が進むことを期待する他ありません。