EGFR遺伝子変異とTP53変異との共存、TP53変異部位別に治療を分けた方が良い?

Impact of TP53 Mutations on EGFR-Tyrosine Kinase Inhibitor Efficacy and Potential Treatment Strategy.

Fu J et al.
Clin Lung Cancer. 2023 Jan;24(1):29-39.
PMID:36117108.

Abs of abs.
TP53変異がEGFR-TKIの効果に及ぼす影響と治療戦略について検討した。患者背景と次世代シークエンサーにより遺伝子変異をスクリーニングし情報収集した。TKIの奏功は、各フォローアップ時点におけるCTで評価した。非小細胞肺癌患者から計1134例の臨床検体が収集され、644例でTP53変異、622例でEGFR遺伝子変異が同定された。TP53変異の頻度が低い、あるいはEGFRとの共存が50%以上であるものは、TKI治療における予後と相関していた。また、DBドメイン外領域でのTP53変異はTKI抵抗性と最も強い相関を示した。一方DBドメイン内の各種変異はPFSだけに影響を及ぼしていた。EGFR-TKIを含めた治療別の検討では、化学療法+EGFR-TKIは、予後不良なTP53変異のある患者により大きな生存利益を与え、TP53野生型に対してはEGFR-TKI単剤治療が有利であることがわかった。さらにTP53変異は術後再発までの期間を短縮する可能性があり、これらの患者は化学療法を併用したEGFR-TKIが良さそうに思われた。TP53変異部位の違いにより、TKI治療での予後に様々な影響を与える。EGFR-TKI+化学療法は予後不良のTP53変異を持つ患者の生存利益があり、EGFR遺伝子変異陽性の治療を決める上で重要な資料となる。

感想
非常に細かい研究です。従来よりTP53変異の併存がEGFR-TKIの効果を減弱することが報告されています。TP53遺伝子は5つの主要なドメインをコードしており、コアDNA結合ドメイン(DB)が最も重要とされています。このDBドメインはエクソン5から8によってコードされており、その部位の変異の予後が悪いことが想定されています。しかしそれ以外の変異での意義付けははっきりしていませんでした。今回の解析では全体にTP53変異はエクソン5から8に多く(つまりDBドメイン内)、EGFR遺伝子変異と共存しているものでは特にエクソン7と8に多いようでした。頻度の低いTP53変異は予後が悪く、またDB以外の変異ではPFSとOSが悪くなっていました。この理由としてDB以外のドメインはp53の転写およびアポトーシス誘導活性を担っており、この機能低下がTKI治療の予後により大きく影響しているとしています。さらにDBの変異ではPFSだけが悪くなっていました。非常に多数の解析を行っているので、これだけで結論を出すのは難しいですが、今後の研究の方向性を考える上での材料となりそうです。著者らはFig6に治療のフローチャートを提案しています。それによるとTP53変異の一部、特にエクソン5から8「以外の」変異で抗がん剤+TKIを推奨しています。しかしこれまでの既報と合わせると、変異部位はともかくTP53変異があるものはTKIの効果があまりないので抗がん剤併用など別の手を考えた方が良いのではないかと考えます。