TKI投与中の甲状腺機能障害

Thyroid dysfunction in non-small cell lung cancer patients treated with epidermal growth factor receptor and anaplastic lymphoma kinase inhibitors: Results of a prospective cohort.

Soni S et al
Lung Cancer. 2021 Jan;151:16-19.
PMID:33278669.

Abs of abs.
EGFR/ALK-TKIは、EGFR/ALK陽性非小細胞肺癌患者にとって良い治療法である。TKIは理論上、視床下部-下垂体-甲状腺系の様々な段階に作用して甲状腺機能障害を誘発する可能性がある。しかしEGFR/ALK-TKIの使用に関連した甲状腺障害に関する報告はなされていない。今回は、EGFR/ALK-TKIによる治療を受けた非小細胞肺癌患者における甲状腺障害の発生率を前向きに評価することを目的とした。今回の前向き観察研究は、組織あるいは細胞診で診断された進行非小細胞肺癌患者を対象に、15ヵ月以上にわたりEGFR/ALK-TKIによる治療を行ったものを対象とした。甲状腺検査(抗TPO抗体を含む)をベースライン時に行い、最初の3ヶ月間は毎月、その後12ヶ月間は3ヶ月毎に繰り返した。6種類の薬剤(EGFRとALK阻害薬)を使用し治療された50人の非小細胞肺癌患者を登録した。このうち、4種類の薬剤(エルロチニブ、ゲフィチニブ、セリチニブ、クリゾチニブ)で甲状腺障害が見られた。甲状腺障害は、典型的にはTKI治療開始後1カ月で発症していた。甲状腺機能障害の有病率は8%であった。治療を要さない潜在性甲状腺機能障害と治療を必要とする甲状腺機能障害はそれぞれ4%であった。すべて患者は無症状であった。治療を必要とする甲状腺機能障害の患者はいずれも甲状腺機能低下症であったが、不顕性機能障害は甲状腺機能低下症と甲状腺機能亢進症とが同じように存在した。甲状腺機能障害を発症したすべての患者は期待された臨床利益が得られており、TKIの投与中断や中止は不必要であった。今回の研究から非小細胞肺癌患者は、EGFR/ALK-TKIの治療中に甲状腺機能をモニターする必要があるかもしれない。

感想
免疫チェックポイント阻害薬の登場により肺癌診療においても甲状腺機能検査を日常的に行うようになりました。それとともに意外に多くの甲状腺機能低下と遭遇します。一般に甲状腺疾患は高齢、女性に多いですからTKIの内服期間が長ければそれだけ(肺癌と関係なかったとしても)多くなるわけです。今回はTKI治療中に潜在性+有症状の甲状腺機能異常が8%に見られたとする報告です。先行研究によればCMLや腎癌におけるスニチニブ、ソラフェニブ、イマチニブ、パゾパニブ使用により良く見られるようです。著者らが言うように特に抗がん剤治療中の甲状腺機能低下は症状で拾い上げるのは難しいため、定期モニタリングの必要性があるかと思います。必要頻度については判断が難しいですが、今回と同様1ヶ月とその後3ヶ月毎くらいが妥当でしょうか。TKIもそうですがICIも日常的に使うようになり臓器別専門医だけでは仕事は回らず総合内科の視点も再度求められつつように思います。