TMBとDNA修復変異との関係

Association of Tumor Mutational Burden With DNA Repair Mutations and Response to Anti-PD-1/PD-L1 Therapy in Non-Small-Cell Lung Cancer.

Chae YK et al.
Clin Lung Cancer. 2019 Mar;20(2):88-96.
PMID: 30425022

Abs of abs.
非小細胞肺癌におけるTumor mutation burden(TMB)の臨床的な予測因子を検討し、同時にTMBとDNA修復変異との関係、および免疫チェックポイント阻害薬への反応のバイオマーカーとしてTMBの解析を行った。72人の連続した患者について後ろ向きにTMBスコアを決定した。この解析にはFoundation Medicineの次世代シークエンシング包括的ゲノムプロファイリングで行われた。TMBスコアは、いくつかの背景因子およびDNA修復変異の存在と相関していた。34人の患者はPD-1/PD-L1抗体での治療を受け、さらにTMBスコアに従って生存解析が行われた。免疫組織化学分析を患者のサブセットに従って行った。。背景因子では喫煙歴が、高いTMBスコアを予測した。これ以外の治療ライン数、病期、および転移部位の数など他の背景因子と高いTMBスコアとの関連は見られなかった。より高いTMBスコアは、DNA修復変異と有意に関連していた。免疫チェックポイント阻害薬で治療された患者において、より高いTMBスコアは全生存を有意に予測したが、無増悪生存は予測しなかった(ハザード比=0.10、P=0.003;ハザード比1.1、P=0.84)。小集団ではあるが、PD-1/PD-L1染色は無増悪生存期間および全生存期間を予測するものではなかった。。本研究では、組織TMBは喫煙歴およびDNA修復変異の数と有意に関連していた。TMBは、PD-1/PD-L1療法に対する反応への有望なバイオマーカーであり、高いTMBスコアはより長い全生存期間を予測する。

感想
TMB高値とMSI-highはともに免疫療法の効果予測因子となっています。しかしこの両者の関係はこれまではっきりとしていませんでした。有名なsomatic mutationの頻度を癌種横断的に報告した論文[Alexandrov LB Nature. 2013 PMID:23945592]では、中央値でみた場合、悪性黒色腫>肺扁平上皮癌、肺腺癌、膀胱癌、小細胞肺癌、食道癌、大腸癌となっていました。また以前読んだ論文では、MSI-highの頻度が高い癌種としては大腸癌、子宮内膜癌、泌尿器癌と報告されていました[Latham A JCO2019 PMID:30376427]。明確な機序は不明ですが、疾患の重複が多いので、TMB高値とMSI-highにつながるDNA修復酵素の異常を見るのは意義がありそうです。
今回は次世代シークエンサーで236-315の遺伝子を測定し、メガベースペア当たりの変異が2-14をTMB low、15≦をhighと分類しています。ドライバー変異とTMBとの関係は、EGFRとKRASが低い傾向にありましたが有意ではなく、ALKやROS1では低く、BRAFはバラついていました。このあたりは従来の報告と同じです。面白いのはステージや治療ラインとの関連が見られなかったことです。かつて化学療法で腫瘍を壊した方が免疫治療の効きが良くなるのではないかといわれていました。TMBだけが免疫療法の効果予測として正しいという前提であれば、この仮説は違うということになります。今回、DNA修復異常は直接と間接に分けて検討されています。直接はミスマッチ修復、相同組み換えなどに関連する122遺伝子、また間接はゲノム安定性などに関与する71遺伝子を指定しています。結局直接・間接とも、これらの変異の数とTMBの高低は有意に関連していました。免疫療法でのPFS、OSではTMB高値がOS良好でしたが、PFSはあまり変わりませんでした。PD-L1染色との関連も検討されましたが、>20%でTMBが高いくらいの結果であり、あまり面白い結果は得られていません。
再度、喫煙とTMBの関係が確認されており、いくら免疫療法の効果が期待できるといっても、喫煙が有害であることは論を待ちません。以前抗がん剤治療に際し、禁煙が甘くなってしまうことを書きましたが、再度禁煙の推進に臨もうと思っています。