TMB測定には細胞診検体の方が良いかもしれない

Robust assessment of tumor mutational burden in cytological specimens from lung cancer patients.

Alborelli I et al.
Lung Cancer. 2020 Nov;149:84-89.
PMID:32980613

Abs of abs.
Tumor mutation burden(TMB)は、免疫チェックポイント阻害剤治療の予測バイオマーカーとして期待されている。FFPE検体での TMB解析はよく研究されているが、細胞診検体での解析は限られており、異なる検体間での TMBの一致をみた研究はない。今回は同一肺癌患者の組織検体と細胞診検体を対比してTMBを評価し、TMB推定精度を評価した。次世代シークエンシングアッセイ(Oncomine)を用いて、FFPE検体およびエタノール固定細胞診スメア標本(n=12)の遺伝子変異およびその結果としてのTMBを解析した。TMBの推定には、2種類の異なる対立遺伝子頻度(VAF)の閾値を使用した(VAF=5%または10%)。5%のVAF閾値では、73%(107/147)の遺伝子変異が組織および細胞診検体で一致し検出された。不一致は主にFFPE検体で見られる特有の変異(34/40の不一致変異)であり、そのほとんどがC:G>T:Aの転移であり、アレル頻度は低かった。おそらくこれはホルマリン固定のアーチファクトを示している。VAFの閾値を10%に上げると、組織と細胞診で変異の一致率が増加し96%(100/106の変異)となった。またFFPEのみに見られる変異の数が大幅に減少(34変異から4)した。細胞診検体では、どちらのVAF閾値においても一貫した変異数とTMB値を示した。FFPE検体を用いた場合、12人中2人は、VAF閾値5%でTMB-high、10%でTMB-lowに分類されたが、細胞診検体ではVAF閾値とは無関係に一貫した患者分類が可能であった。今回の検討から細胞診標本を使用するとDNAの質が高く、ホルマリンによるアーチファクトがないため、より一貫したTMB値が提供できることが示唆される。したがって、強固なTMB推定のために細胞診標本がより良い検体として考えられていくべきである。

感想
TMBがバイオマーカーになり得るかどうかは別にして、FFPEよりむしろ細胞診スメアの方が役に立つかもしれないという点で新規性のある研究です。組織検体の処理はホルマリン固定されその後パラフィン包まれ保存されます。一方細胞診はアルコール固定であり、腫瘍量という点で劣りますが、ホルマリンを避けられる利点もあるわけです。ただ今回採取DNA量が平均値で細胞診19.6 μg、FFPE0.68 μgと細胞診の方が多くなっています。技術的な点についてはコメントできませんが、これが日常的に起こることであれば、細胞診検体の保存にもっと力を入れるべきかも知れません。さて今回の研究のハイライトはFig2Bであり、検知する感度を少し甘く10%以上とした場合にFFPEのTMBと細胞診のTMBがよく一致していました。現在保険適応の遺伝子パネルはある程度細胞数がないと成功せず、細胞診検体で難しい状況です。今回報告された技術が臨床に還元され、細胞診スメアでもドライバー変異、TMB測定ができるようになるよう期待します。