TTF-1陰性へのペメトレキセドの効果、複合免疫療法のレジメン選択の一助になる可能性

Pemetrexed-Based Chemotherapy Is Inferior to Pemetrexed-Free Regimens in Thyroid Transcription Factor 1 (TTF-1)-Negative, EGFR/ALK-Negative Lung Adenocarcinoma: A Propensity Score Matched Pairs Analysis.

Frost N et al.
Clin Lung Cancer. 2020 May 22:S1525-7304(20)30154-6. Epub ahead of print.
PMID:32620471.

Abs of abs.
TTF-1は肺腺癌の予後因子であり、陽性患者は分子標的治療の対象となる変異をより来しやすい。これに対してTTF-1陰性例に関する研究は乏しく、今回はEGFR/ALK陰性の集団に対してTTF-1陰性例における抗がん剤の効果について後ろ向き解析を行った。2009-2016年にTTF-1発現を評価できた741人の患者について検討した。そのうち529人がプラチナベースの初回治療を受けていた。TTF-1およびいくつかの因子について無増悪生存期間ならびに全生存期間への影響を調べた。方法として1:1の傾向スコアマッチングを行いペメトレキセドの有無を比較し、その後Cox回帰が行われた。TTF-1陰性は男性、PS不良、初診断時での転移箇所が多い、副腎転移が多いといった明らかに違う傾向を示していた。これらの患者はペメトレキセドの代わりにゲムシタビン、タキサン、ビノレルビンを含んだレジメンで治療された場合に無増悪期間(ハザード比0.42)、全生存期間(ハザード比0.40)が改善されていた。全生存期間で見た場合、どのレジメンであってもTTF-1陽性を上回ることはなかった。総じてTTF-1発現は無増悪生存期間(ハザード比0.54)、全生存期間(ハザード比0.53)に関する強い予後因子となっていた。TTF-1陰性は癌の一つの表現型と考えられる。このバイオマーカーを組み込むことは、適切な治療選択に役立つ。

感想
TTF-1は肺腺癌の6-8割程度に発現しています。古くから原発・転移性肺癌の鑑別に使われており目にする機会が多いものです。腺癌でTTF-1陽性なら典型的な肺腺癌と言えますが、組織型は腺癌でもTTF-1陰性例もあり、形態でも確定せずNOSと付く場合もあります。特にペメトレキセド出現以降、これらをすべて非扁平上皮癌と扱ってよいのか議論されてきました。これに傾向スコアを使った初めての検討です。
対象期間中にプラチナ2剤を受け、TTF-1発現の判明していた陽性例390人、陰性例139人をピックアップしています。これを傾向スコアマッチングにより陽性204人、陰性82人に絞り込んで比較しています。スコアに使用したのは年齢、性別、PS、T因子、N因子、転移臓器個数、副腎転移、脳転移、骨転移、プラチナ製剤、投与サイクル数、メンテナンス治療で標準偏差から20%程度のずれは許容としています。
結果を見ていきます。ペメトレキセドへの奏効率はTTF-1陽性が25%、陰性が14.3%、特にPD率は19%対42.9%と大きく差がついています。ペメトレキセド以外の奏効率は18.3%対10.2%、PD率は16.8%対44.9%で、TTF-1陰性例はペメトレキセドはもちろんのこと、それ以外の抗がん剤へも効果が低いことが分かります。今回は免疫チェックポイント阻害薬はほとんど使われておらず評価ができないのが残念な所です。生存曲線ではPFS、OSとも「TTF-1陰性でペメトレキセド例」が最も悪いものの、TTF-1陰性であってもペメトレキセド以外の治療はそれほど悪くないところが興味深いです。PFS、OSのサブグループ解析ではすべてが”pemeterexed free better”の方に寄っているのが気になりますが、おそらくこれはTTF-1陰性に属性をマッチさせているためと思われます。
さてTTF-1と免疫チェックポイント阻害薬と奏効の関連はあまり報告がありません。TTF-1とPD-L1発現を直接比較した報告も探してみましたが見つかりません。臨床的に感じるように、おそらくこれらにはあまり関連がないのでしょう。そのため論文にならずに興味が持たれないものと想像します。しかし免疫療法+抗がん剤が主力となっている現在、非扁平上皮癌ということでプラチナ+ペメトレキセド+ICIを無条件に選択してよいのでしょうか。
今回のデータが真実であり、TTF-1発現がICIの奏効を大きく左右しないと仮定します。その場合TTF-1発現により、この3剤併用療法の生存曲線は大きく開いているはずです。ペメトレキセド以外の組み合わせにより、これを解決できる可能性があることになります。また仮に重なっていたとすれば、TTF-1陰性例において、ペメトレキセド+ICIでTTF-1陽性例よりも高い相乗効果があった可能性が出てきます。著者らもこの点がかなり気になるようで、組み合わせ薬剤選択に際しTTF-1が”vaild tool”になること、前向き試験の必要性を強調しています。