YAP1 Defines an Emergent, Plastic Population of Relapsed SCLC.
Stewart CA et al.
J Thorac Oncol.2026 Aug;21(8):103730.
PMID:42019833
Abs of abs,
小細胞肺癌は神経内分泌系統の特徴を持った進行の早い悪性疾患であり、早々に化学療法耐性化し予後の悪い疾患である。未治療での転写の異質性により、4つサブタイプに分けられ、それぞれ異なる臨床的脆弱性を有している。YAP1は以前は明確なサブタイプを区別する因子として仮説が立てられていたが、治療歴のない純粋な小細胞肺癌におけるYAP1の発現はほとんど見られない。方法として再発小細胞肺癌の状況を見るため、標準治療に対する耐性を示した患者および前臨床モデルから採取した循環腫瘍DNA、循環腫瘍細胞、針生検標本を解析した。未治療のものとは対照的に、これらの解析により、治療抵抗性と一致して出現するYAP1陽性細胞集団が明らかになった。これらのYAP1陽性細胞は、老化、幹細胞様特性、可塑性など、薬剤耐性持続細胞の特徴を示しており、YAP1陽性細胞は小細胞肺癌の特徴をほぼ放棄し、大細胞神経内分泌癌の特徴を取り入れている。この小細胞肺がん様から大細胞型神経内分泌がん様への進化の結果、YAP1陽性細胞は、臨床的に重要な小細胞肺癌の表面標的(DLL3、SEZ6など)を欠いている一方で、他の標的(B7-H3、TROP2など)が豊富に発現していた。私たちは治療抵抗性と共にYAP1を発現する細胞が出現するというモデルを提唱し、これは未治療の系統から分岐し、治療反応を回避する特徴を獲得する能力を持つ、頑強な亜集団と特徴付けられる。
感想
非常に興味深く、また難しい報告です。小細胞肺癌は主に転写因子の発現パターンから、4つの分子サブタイプに分けることが提唱されています[Rudin CM, Nat Rev Cancer 2019, PMID: 30926931]。この分類はASCL1(SCLC-A)、NEUROD1(SCLC-N)、POU2F3(SCLC-P)の優位性によって定義され、当初は第4のサブタイプとしてYAP1(SCLC-Y)が独立して存在するとされていました。しかしその後、免疫療法との関連を踏まえた再分類[Gay CM, Cancer Cell 2021, PMID: 33482121]では、第4のサブタイプはYAP1ではなく、抗原提示機構、T細胞浸潤、免疫チェックポイントなどの炎症性特徴を持つSCLC-Iとして定義し直されました。さらに、当初「YAP1陽性SCLC」とされていた代表的な細胞株の多くが、実はSMARCA4欠損未分化腫瘍という別疾患であったことが判明し、YAP1をSCLCの独立したサブタイプとすることへの疑義が強まりました。一方で、YAP1は未治療の小細胞肺癌では見つからないものの、LCNECやカルチノイド腫瘍では見つかることから、小細胞肺癌の生物学において何らか重要な役割を持っているものと想定されていました。
今回の報告の内容ですが、まずSCLC-A細胞にプラチナ製剤を加えていくと、ASCL1が減少する一方でYAP1が増えていくことが確認されました。臨床的にも、再発後の組織染色でYAP1が新たに検出され、循環腫瘍細胞からも再発患者ではYAP1(リン酸化YAP1)が増えていることが確認されました。シングルセル解析では、再発患者の腫瘍細胞のうち約15%がYAP1陽性でした。また疑似時間解析で細胞の分化・進化の段階を推測しています(この推定の信頼度がどの程度かは、著者らも症例数の少なさなどを限界として挙げており、今後の検証が必要と思われます)。それによると、YAP1陽性細胞はむしろ祖先に近い細胞と判断されました。つまり、YAP1陽性細胞からまたASCL1型などへ「分化」する可能性が示唆されたことになります。さらにAIによる分類でこの細胞がSCLCらしいのかLCNECらしいのかを判定したところ、YAP1陽性細胞のほとんどはLCNECらしいと判定されました。またこれらの細胞はDLL3をほとんど発現しておらず、代わりにB7-H3、TROP2、HER2を発現していました。つまり、現在の再発小細胞肺癌治療でDLL3を標的としたタルラタマブを用いても、これらのYAP1陽性細胞は認識できず、再発を許してしまう可能性があるということになります。実験内容も豊富であり、十分な内容と思うのですが、本来はもう少し格上の雑誌を狙って投稿されたものでしょう。しかしこの内容でJTOであるということはその道の専門家から見ると、決定力がまだ不足しているという判断があると思います。