PACIFIC試験: PD-L1<1%のデータ

Outcomes with durvalumab by tumour PD-L1 expression in unresectable, stage III non-small-cell lung cancer in the PACIFIC trial.

Paz-Ares L et al.
Ann Oncol. 2020 Mar 21. [Epub ahead of print]
PMID:32209338

Abs of abs.
PACIFIC試験は、切除不能Ⅲ期非小細胞肺癌で化学放射線療法後にデュルバルマブ投与が対プラセボで無増悪生存期間および全生存期間の延長を示し、安全性も管理可能であることを示した試験である。今回は探索的解析としてPD-L1発現ごとのアウトカムを報告する。患者はランダム化されデュルバルマブ/プラセボを2:1で割り付け、2週ごと12ヶ月まで投与される。層別化因子は年齢、性別、喫煙であったがPD-L1は入っていなかった。入手できる限り、化学放射線療法前の検体でPD-L1発現を免疫染色し、事前設定は25%、事後設定として1%をカットオフとした。治療効果としてのハザード比は層別化しないコックスモデルを使用した。713人がランダム化され709人が1回以上の投与を受けた(デュルバルマブ473例、プラセボ236例)。451人(63%)がPD-L1評価が可能で、25%以上が35%、1%以上が67%、1-24%が32%であった。中央値で33.3ヶ月フォローアップし、PFSはすべてのサブグループで改善が見られ、25%以上で0.41[0.26-0.65]、25%未満で0.59[0.43-0.82]、1%以上で0.46[0.33-0.64]、1%未満で0.73[0.48-1.11]、1-24%では0.49[0.30-0.80]であった。またOSに関しては一つのサブグループを除き改善が見られた。改善が見られたのは25%以上0.50[0.30-0.83]、25%未満が0.89[0.63-1.25]、1%以上が0.59[0.41-0.83]、1%-24%が0.67[0.41-1.10]であり、唯一1%未満に関しては1.14[0.71-1.84]であった。本研究ではすべてのサブグループについてPFSの改善が見られたものの、OSに関しては1%未満の集団以外に観察された。ただしハザード比の信頼区間は広く研究に限界があるため強固な結論とするまでには至らない。

感想
有名なPACIFIC試験の後解析です。PD-L1=1%をカットオフとした場合に、1%未満の症例でOSの改善が見られなかったことからEUがこの集団への承認を見送ったことがありました。それが事実なのか偶然なのか、公表データを元に考えてみることは勉強になります。以前の記事(欧州でのデュルバルマブの使用制限への反論)での主張以上のことはありませんが、より細かく論点となりそうな背景を記事上に表にしてみました。PD-L1<1%でデュルバルマブ投与が不利なのは65歳以上、非喫煙者、EGFR遺伝子変異の割合がわずかに多いということにあります。ただ扁平上皮癌が多いのは有利ですし、男性が多いのも有利に働くように思います。逆に治療に関わらず全体として高齢者、男性が多いのは予後不良となり、結局この偏りが問題なのではないかと思います。PFSで差がついてOSで差がつかないことも、薬効はあることを示すデータかと思います。従って私としては、今回のPD-L1%未満のデータは、背景の偏りによる偶然の結果ではないかと考えています。
話は変わりますが、このような情報は部分的に誇張されがちです。最近ではアビガン臨床試験の中間解析で、詳細は明らかにならないまま無効と判明したかのような報道がなされてます。臨床試験の一部を切り取った解釈は非常に危険を伴います。幸いにして考えるための材料は補遺などで見えるようになってきました。製薬メーカーも意図的な誘導はしにくくなっています。しかしいくら良いデータでも自分の目で確かめる姿勢は持ち続けたいものです。