T790M変異の喪失はオシメルチニブ耐性までの時間と関連

Assessment of Resistance Mechanisms and Clinical Implications in Patients With EGFR T790M-Positive Lung Cancer and Acquired Resistance to Osimertinib.

Oxnard GR et al.
JAMA Oncol. 2018 Aug 2. [Epub ahead of print]
PMID: 30073261

Abs of abs.
T790M発現によるTKI耐性となってしまったEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌(NSCLC)を治療するために、オシメルチニブが使用される。このオシメルチニブに対する獲得耐性は、未解明な臨床的課題である。今回はオシメルチニブの獲得耐性の分子機構と臨床的な変化について解明することを目的とした。対象は先行するEGFR-TKIに対してT790M発現により獲得耐性となってオシメルチニブを投与され、さらに進行したNSCLC患者である。症例は多施設共同コホート(n=143)および確認コホート(NCT01802632)(n=110)から同定された。オシメルチニブ耐性後の腫瘍生検から次世代シークエンシングを行った。血漿検体が入手できた場合には、血漿セルフリーDNAのジェノタイピングを行った。これらによってオシメルチニブ抵抗性のメカニズムと治療期間との関連を検討した。評価可能であった143例のうち、41例(女性28%[68%])は、オシメルチニブに対する耐性獲得後の腫瘍検体で次世代シークエンシングが可能であった。耐性獲得時にT790Mを保持していたのは13人(32%)で、うち9人(22%)においてC797Sが見られた。T790M喪失が見られた28人(68%)では様々な競合する耐性機構が検出された。これらにはKRAS突然変異および融合遺伝子といった新たな耐性メカニズムが含まれている。T790M喪失患者の治療中止までの時間は短く(6.1ヶ月対15.2ヶ月)、これはすでに耐性クローンが存在していることを示唆している。この知見は、オシメルチニブ耐性の後に実施されたセルフリーDNAの血漿110人の検証コホートでも確認された。EGFR遺伝子変異の血漿の連続変化において、耐性獲得時におけるT790Mの喪失は、治療開始1-3週間後のEGFR変異のレベルがあまり減らないこと関連していた(100%対83%減少; P=0.01)。今回の研究からT790M変異の喪失によるオシメルチニブに対する耐性獲得は、早期耐性および競合する耐性機構が広く関連する。これらのデータは、進行したNSCLCにおける抵抗性が多彩であることの根拠であり、複数の耐性克服への戦略、またはその耐性を予防するための戦略の必要性を示すものである。

感想
第1,2世代TKIでT790M耐性、その後オシメルチニブ使用で耐性となった後の治療はしばらく問題になります。有名なC797S以外はどうなっているのかを主にリキッドバイオプシーで追いかけた研究です。先行研究としてはAURA試験後の検体を使った研究[Lin CC LancetRespirMed2017 PMID:29249325](旧ブログ記事ではhttp://blog.livedoor.jp/j82s6tbttvb/archives/52738802.html)や[Planchard D AnnOncol2015 PMID:26269204](同http://blog.livedoor.jp/j82s6tbttvb/archives/46839173.html)があり、過去にも取り上げています。耐性化メカニズムとしてはC797Sの印象が強いのですが、割合は決して多くなく今回は22%(9/41)でした。重要な点はFig3にあるように、T790Mを保持しながら耐性化するものにはC797Sの出現が高く予後が比較的良好である点です。血漿での確認データでもC797Sの有無にかかわらず、T790Mを保持したものは治療中止までの時間(TTD)が長く、耐性時にT790Mを喪失していたものは治療期間が短いということになりました。これは単純にT790M陽性のクローンが多いか少ないかによるのかもしれません。この点は今回も検討されましたが、うまく証明できなかったようです。またT790Mが喪失し、見かけ上Del19/L858Rのみが残存することで、第1,2世代TKIへの感受性が復活したかのように誤解されるかもしれません。著者らはこれを明確に否定しています。Fig3を見てもわかるように、T790M喪失は多彩な変化が出現しているということであり、これらはすべてT790M変異以外の耐性としてすでに報告されているものです。もちろん臨床的にも感受性が復活するような現象は確認されていません。
今後の対策として、オシメルチニブ耐性時にT790M変異を再度測定し、その保持状況で分けて治療を考えていくことが挙げられます。またT790Mを保持するほうが予後良好であれば、その方向にもっていく治療があるかどうかも模索する必要があります。いわゆる”compound mutation”の議論を見ていても、EGFR遺伝子変異陽性肺癌では、「きれいに壊す」ことで長く分子標的治療の管理下に置こうとする考え方が試されつつあります。臨床医としてまずできることは、オシメルチニブ耐性時に可能なら再生検もしくは血漿でのEGFR遺伝子変異を測定しておくことでしょう。